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■2007年6月1日松尾貴臣公式blogより

いつかまた巡り逢える

「きみに読む物語」という曲を去年作った。

シンガーソングライターとして恥ずかしながら、去年作った唯一の曲だ。

僕の2006年は、土台作りに精一杯で創作というものがほとんど出来ない1年間だった。

今はインプットの時期。そう自分に言い聞かせた1年間でもあった。

その唯一の曲「きみに読む物語」は去年7月に千葉大学で行われた「支えあう会α」という団体のシンポジウムにゲストで呼ばれたことがきっかけで作った曲だ。

ちょうど「ゆりのき」を発表した直後で、キャンペーンのごとく数曲会場で歌わせていただいた。

僕が歌った後、会は「ガン経験者」「ガンで家族を失った人」の話へと展開した。せっかくなので時間があったら聞いて行ってと薦められ、恐縮ながら後ろの方で聞かせていただいた。

3人くらいの人がみんなの前で、自分の実体験を語ってくれたのだが、その中で今でも忘れられない1人の女性がいた。

30歳くらいの女性で優しい顔をしたかわいらしい人だった。「私は今現在、ガンと闘っています。私の命はあと半年です。」と笑って話した。

僕は、ただ純粋に衝撃を受けた。

それなりに年齢を重ね、それなりの体験をし、それなりのことじゃ驚かなくなっていた僕の心を、いとも簡単に揺るがしてしまう程の衝撃だった。

初めて人の口から「もうすぐ私死ぬんです。」って言葉を聞いたからだ。


想像して欲しい。


「もうすぐ死ぬ」と言えるシュチュエーションを。


普通なら、自分がガンに侵されてしまっていたら、もう全て塞ぎこんでしまい人前でそんな発表をしようなんて思わないのではないだろうか。

実際に「もうすぐ死ぬ」という人はいても、それを目の前で教えてくれる人はなかなかいないのである。


「でも、泣きません。残りの人生を楽しく生きるって決めたんです。」って笑って話をし、終えた。


身内をガンで亡くしたことのない僕にとって、ガンとはあまりに遠い世界の話であり、なんとも言い難い事柄であった。

その後、コメントを求められたのだが、気が利いたことひとつ言えず、しどろもどろな発言をしたことを覚えている。


帰り道、主催の女性の方たちと少し立ち話をした。僕はその日感じたことを素直に伝えた。あまりに違う世界が実は紙一重の中にあると感じ、それくらい能天気な人生を送って来たと初めて知ったと。

素直に言ったものの、実際にガンと向き合っている人たちに対して、その発言はあまりに気楽で、怒られてしまうかなと思ったのだが、意外にも「そういう感情をぜひ歌で表現して欲しい」ということを言ってくださった。

僕も「そうですね、ちょっと考えてみます」なんて言ったものの、実際そんな重いテーマの歌は僕には書けないなぁなんて思っていた。


そして、数日後インターネットをしていて、その女性のブログに辿りついた。シンポジウムのことについても書かれていて、僕のことも書いてくれていた。「すごい声がいいー」なんて書いてくれていた。嬉しいなぁって思った。

しかし、そんなことより、さらなる衝撃が僕の心を支配した。

そのブログは、闘病記と題されつつも、大方彼氏とのラブラブな日記だったからだ。


複雑な想いだった。僕が彼氏なわけではないので、余計なお世話なのだが、彼氏はどんな心境なのだろうかと。彼女が半年後に死んでしまうと分かっていて付き合うということはどんなことなのだろうかと。

でも、女性にとって、残された時間は「彼氏とのための時間」なのだ。(もちろん家族や友人に対しての想いもあるだろうが。)

しかし、やはり愛する人との時間が1番大事なのだ。

人として生まれたから、きっとそうなのだ。


僕は歌を作りたいと思った。

ガンに対しての想いは、ちゃんと理解できていない僕には書けない。だけど、誰かを強く想う気持ちなら書ける。そう思ったからだ。

初めて「最終的な別れ」というテーマで曲を書こうと思った。

別に僕が歌を作ったからって、その女性の病気が治るわけでもないし、ましてガン患者の人たちが励まされるわけでもない。むしろ余計なお世話かも知れない。

だけど作ろうと思った。

2006年、僕に与えられた唯一の衝動だった。


「僕に残された時間が、もう少し明確に分かったなら、もっと本気で生きられるかな」

そんなフレーズが最初に浮かんで来た。1番主題となるのはこの気持ちだと思った。



数日後、夕方、千葉公園を自転車で走っているとき、あまりの空気の心地よさが僕にこんな言葉を与えた。


「大切なことは僕は君が好きで君は僕が好き、そんな単純なこと」


もうその翌日にはほとんどの歌詞も曲も完成していた。

シンポジウムからわずか2週間程のことだった。







そんな、衝動を与えてくれた女性のブログは月に2,3回はチェックしていた。

でも正直、開くのが怖かった。それは最近になればなるほど怖かった。




気がつけば、2ヶ月くらいブログを見ていなかった。



今日、ふと開いてみた。



おそるおそる開いてみた。




「安らかに眠りました」


そんなタイトルだった。眠りにつく最後の状況と、ひととおりのお礼の言葉の後に「相方より」と記名されてあった。

気持ちが重く沈んだ。


そのひとつ前のブログがその女性の最後の日記だった。もうこれが最後のブログになると思うと書かれていた。でも、最後の最後まで明るいテンションの高い文章だった。

「またいつか会える気がする」

そう書かれていた。

涙が出た。

「きみに読む物語」という歌を僕に与えてくれたのはこの女性だ。

僕のことなどすぐに忘れてしまったかも知れない。こんな歌など余計なお世話だったかも知れない。

別にこの曲で世界がどうなるとも思わないが、少なくとも僕は考え方が変わった。

日々を大切に生きようと思った。


ありがとうございました。またいつか会いたいです。

(C)Takaomi Matsuo